【金沢・長町1丁目】
前回にも書きましたが、野村家の建物は橋立の久保家の一部「離れ御殿」を昭和16年(1941)に移築したものです。上段の間、謁見の間、武者隠し、控えの間、奥の間、仏間ですが材質、造作、仕上げ、建具、襖絵、欄間に至るまで、金に糸目をつけず贅を尽くしたもので、移築復元とはいえ貴重の文化遺産だといわれています。
(長町の野村家)
(母家の方は昭和16年に、現能美市寺井町の撚糸業の家に移築されましたが、平成12年(2000)から3年の歳月をかけ大聖寺に移築復元され、現在、市の施設「蘇梁館」としてNPO法人加賀国際交流会たぶんかネット加賀が管理しております)
(離れ座敷と蘇梁館・久保家の時の建物を平面図にすると・・・)
建物は総桧づくりで、意匠も普請にも苦心を凝らしていて、完成には相当の年月が費やされたといわれていますので、解体移築もかなり長時間に渡り丹念に行なわれたことが窺えます。
(余談ですが、解体移築について母家(蘇梁館)の記録を拾ってみると、普通の建物なら1週間で解体できるそうですが、この建物は壁は固くツルハシで叩いても穴があく程度で、床板も約30cm巾の桐材で全部漆を塗りクギは使わずかみ合わせで、土台は上質の笏谷石(しょくたにいし・越前石)を何段にも重ねてあり、普請が良すぎて1ヶ月もかかったと書かれていることからも、「離れ座敷」は更に時間と手間が懸ったものと思われます。)
≪上段の間≫
① 柱は桧の四方柾目の白無垢づくり
② 天井は白木の豪放な格天井
③ 壁は天然の弁柄塗り
④ 床框(とこかまち)は6尺の黒柿材
≪付書院≫
① 違い棚はケヤキの細かな如輪木目の1枚板に春慶塗り、「筆かくし」の部分は紫檀、黒檀の緻密な細工
≪上段の間や書院の障子≫
① 14枚の障子の中間に巾60cm高さ65cmのギヤマン(輸入物)がはめ込まれている
≪上段の襖≫
① 白木の縁で、襖絵は狩野派の佐々木泉景71歳のお作で、「唐土八景図」②戸袋4枚は、書院の地袋2枚と共に金地の絹張りで、墨絵が描かれている
等など、ほんの一例です。写真で見て戴けないのが残念ですが「離れ御殿」の各お部屋には、加賀の美術工芸の粋や格調高く深い由緒が随所に見られ、「離れ御殿」全体が文化遺産といっても過言ではありません。長町にいらっしゃいましたら、是非・・・、さすがにミシュラン2星。お庭と共に一見の価値ありです。
参考文献:島喜久次著「野村家跡地に移築現存する北前船々主久保彦兵衛旧邸「御殿」の由緒について」石川郷土史学会々誌、その他