【金沢】
金沢の金属工芸を美術工芸として命脈を繋いだのは、高橋勇(介州)氏でした。昭和4年(1929)第10回帝展に初入選以後、帝展、新文展に入選を、戦後は日展に出品を重ね、昭和23年(1948)には日展会員となり昭和37年(1962)には日展評議員、昭和55年(1980)からは参与として日展への出品を続けました。
(旧金沢美術工芸大学・現石川県立歴史博物館)
一方で昭和16年(1941)から石川県工芸指導所所長となり、昭和37年(1962)からは館長として石川県美術館に勤めました(昭和46年(1971)3月まで)。昭和50年(1975)には加賀金工作家協会を結成し、会長として、若手作家の育成に努めました。昭和51年(1976)勲四等瑞宝章受章。昭和57年(1982)には加賀象嵌技術保持者として石川県無形文化財に認定されます。
(石川県美術館は、昭和34年(1959)谷口吉郎氏の設計開館。昭和58年(1983)現在地に移転と共に名称を石川県立美術館と改称し、石川県にゆかりのある作品を中心に収集しています。旧美術館は、現在石川県立伝統産業工芸館になっています。)
(高橋勇氏が館長を勤めた石川県美術館)
(今の石川県立美術館)
高橋勇(介州)氏は、動物や鳥などをモチーフとした香炉に、石川県の伝統的な彫金技法「加賀象嵌」の技術をいかして模様をあらわした装飾性豊かな作品を制作しますが、平成16年(2004)10月29日に99歳でお亡くなりになりました。
(その年は、石川県の美術文化の大きな変わり目に年でした。美術文化協会及び現代美術展開始60周年という区切りの年であり、さらに、後世へと伝える新しい装置として、現代美術の金沢21世紀美術館が死の20日前10月9日に開館します。また、高橋介州氏の弟子の象嵌作家中川衛氏が、56歳の若さで人間国宝に認定された年でもありました。)
(金沢駅港口にある金属工芸のオブジェ)
人間国宝の中川衛氏ですが、電化製品の工業デザイナーからの転進で、27歳のとき、母の介護のため故郷金沢に戻り、たまたま展覧会で観た加賀象嵌の鐙(あぶみ)に心を奪われ、「最後の技術者」といわれた高橋介州氏に弟子入りし、県の工業試験所に勤めながら制作の手伝いが始まり、道具や材料の自作や調達まで身につけます。
中川衛氏は、師匠高橋勇(介州)氏に「人より1時間よくすると、2~3年ではわからないが、いつの間にか差がついている」と言われ、11年間、毎日が寝不足だったらしく、入門から5年後には、日本伝統工芸展に初入選、昭和57年(1982)日本工芸会正会員。昭和60年(1985)金沢美術大学講師、平成8年(1996)教授。平成16年(2004)重要無形文化財保持者(人間国宝)認定されます
。
しかし、いずれも役所勤めや教育者の二足の草鞋で、大変なご苦労をされたと思いますが、いわゆる兼業作家で、それだけ指導者としても優れていたのでしょうが、一方では作家として職人として兼業しなければ成立しないという事情もあります。
(中川衛氏が教えた金沢美術工芸大学)
現在、金沢には金工作家の後継者の養成機関として、金沢美術工芸大学や大学院に金工(鋳金・彫金・鍛金)があります。また、卯辰山工芸工房の金工では5人が奨励金を支給され、加賀象嵌(彫金)・鍛金・鋳金の技術研修により独自の表現と創作を目的に工芸技術の向上を図ることを目指しているそうで、修了者の半数が金沢に残り、多くはバイトをしながら作家活動をなさっていると聞きます。
(前にも書きましたが、昭和38年(1963)の毎日新聞での後継者はここ10年間一人もいなく技術保持者でも辞めていったという記述からみると隔世の感があります。)
今年1月に発行された金沢21世紀美術館の館長秋元雄史氏の「工芸未来派」や昨年10月に開催された「金沢工芸アート・チャリティオークション」では、若手の金沢在住の金工作家も選ばれています。その中に新進のジュエリー作家や鍛金の技法を駆使した珍しい自在置物作家、銅や錫、真鍮、そして金属とガラスや漆をコラボで表現する新しい形の工芸を試みる作家も登場しています。
今、金沢の金属工芸は、10代水野源六が目指した産業化には及ばないとしても、現代アート(美術工芸)として、新しい切り口で金属工芸が伝えられています。それでも本来の金沢の金属工芸の復活には、今後、作家が兼業しなくても売れて食っていけるかに掛っていそうです。
(工芸未来派とは、従来の「用と美」にとらわれず、新たなイメージを紡ぎ出す今日の表現メディアとして、工芸独自の技法と工芸の歴史観を参照しながらも、これまでの工芸とは明らかに異なったアプローチで、現代アート等とも通底、発表の仕方も作家それぞれの独自性を持ち異なり世界に向けたもので、その傾向の作品は、大きくは同一の方向を持ち、今日の表現として世界に向け現代アートと同じように、新たなイメージを紡ぎ出す今日の表現メディアとして世界へ発信しているのだとか・・・。)
参考資料:高橋介州「日本美術年鑑」平成17年版(357頁)・中川衛https://ja.wikipedia.org/wiki/ 中川衛・「工芸未来派」秋元雄史著、平成26年1月、六耀社発行・金沢21世紀美術館|工芸未来派ほか