【名古屋・金沢・熊本・鹿児島】
明治10年(1877)2月22日、聯隊本部ならびに第2大隊は神戸着。3月25日に征討軍指揮下に入いり、第1大隊は3月2日に金沢を出発します。一方、第3大隊は高知県に派遣され、高知の士族決起の警戒に当たります。
(金沢城の歩兵7聯隊)
西郷軍は2月22日、熊本城下に入り、熊本城の鎮台を包囲しますが、このとき、熊本士族団と西郷軍に合流し、池辺吉十郎、佐々友房らの率いる熊本隊では、新政府の士族締め付け政策に反発しての行動です。さらに、宮崎の飫肥(おび)の士族、大分の中津の士族らが決起し、西郷軍に参戦し、もし、熊本城の熊本鎮台が落ちるようなことになれば、全国の不平士族が決起するという不安から、政府軍は熊本城救援に向かい、それを阻止しょうとする西郷軍と熊本の北、植木坂で猛烈な戦闘が繰り広げられていました。
(熊本城の熊本鎮台)
千田登文の所属する歩兵第7聯隊本部と第2大隊は、神戸に集結後、船で博多に上陸します。しかし、旧黒田藩の士族が、西郷決起に呼応して蜂起したため、福岡士族と戦うことになります。福岡士族は福岡城を攻撃、政府機関に放火などをし、聯隊はこれと戦闘して撃退します。さらに第1大隊は植木坂、田原坂、人吉方面に動員され、西郷軍と熾烈な戦闘を展開することになります。
(聯隊旗)
≪乃木の軍旗喪失事件≫
乃木希典少佐の小倉歩兵第14聯隊が2月22日、熊本の北約10Kmの植木坂(今の熊本市北区植木町植木)に進軍します。西郷軍決起と聞いた熊本城の谷千城は篭城戦を決意し、小倉第14聯隊を速やかに熊本城に入城するように命じます。しかし、乃木の部隊は新式銃の交付に手間取り入城を果たせませんでした。
Googlieマップ 熊本市北区植木町植木
乃木がようやく植木に進軍したころ、西郷軍は熊本城を完全に包囲し乃木の部隊は22日朝、西郷軍と遭遇します。乃木の部隊は農民が主体の下士官が多く200人。彼らは小倉からの強行軍で疲労困憊、そこへ西郷軍約400人が襲ってきます。乃木の部隊も健闘しますが、ついに退却を開始します。
(乃木希典)
しかし、聯隊旗を持っていた河原林少佐が戦死し、聯隊旗を西郷軍に略奪され、乃木聯隊は敗走することになります。この事件は、乃木秀典にとって人生の中でも最も恥辱を受けた出来事でした。
≪その後の乃木希典≫
この聯隊旗を奪われた事件の後、乃木は実質的な総司令官であった山県有朋に厳しい処分を求めましたが、山県は、これを乃木の責任ではないと不問に付しています。しかし、聯隊旗を奪われたことを非常に恥辱と感じていた乃木は何度も自殺を図りました。
乃木と同じ陸軍少佐であった児玉源太郎らに説得されて自殺することを一旦は諦めますが、このことが生涯乃木の心に重くのしかかり、明治45年(1912)、明治天皇崩御の際に殉死するきっかけとなったと言われています。
殉職の際、乃木はいくつかの遺書の中に、この自刃は西南戦争時に聯隊旗を奪われたことを償うためのものである旨が書かれていたそうです。この殉職は西南戦争から35年もの月日が流れていましたが、ずっと気に病んでいたのでしょう。それほどまでにこの聯隊旗は、乃木をはじめ軍人にとって大事なものであったということが分かります。
(30歳代千田登文の写真の模写)
≪千田登文と乃木希典との出会い≫
熊本植木坂の戦いで乃木の聯隊は、西郷軍に聯隊旗を奪われ、旗手の河原林少佐が戦死しますが、その後、登文が聯隊旗手を拝命、大いに栄光の思い、聯隊長の乃木少佐(後に大将)の前に立ち、「不肖千田少尉、このたび、当聯隊旗手を拝命し、唯今着任しまいた」と申告すると、「千田少尉か、おぬしの棒持ちする御旗は、なくなってしまった」と、少佐殿ははらはらと涙を垂れられたので、私はびっくりした。と今井均大将の「回顧録」に書かれているそうです。どうもこれが乃木希典と初対面だったのでしょう。その後、登文は乃木とは親交を結び、乃木の死後金沢の乃木会を組織し乃木の威徳をしのんでいます。
(津田玄蕃邸・明治45年から大正12年まで大手町にあり、乃木会館でした)
このブログは、千田登文(後に少佐)が義理の大伯父に当たる大野敏明氏がお書きになった「西郷隆盛の首を発見した男」を読み、今まで知らなかったことが書かれていて、その深さと緻密さに感銘を受けました。今までの読んだフィクションとしての物語とは違うものを感じ、勝手に思いつくまま一部引用も含め書かせて戴きました。登文が戊辰戦争を含め4つの戦争に従軍した記録を自筆で記した「履歴書」をベースに、登文の娘婿今村均陸軍大将の「回顧録」の「千田登文翁」に、登文から直接聞いた話が書かれていて、これこそが史実であると思うに至りました。縁あって金沢に住むものとして、この「西郷隆盛の首を発見した男」を末永く多くの人に伝えたく思い引用させて戴きました。
(つづく)
参考文献:「西郷隆盛の首を発見した男」大野敏明著 株式会社文芸春秋 平成26年2月
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