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作庭記と兼六園-下-②

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【兼六園】

23、或人口伝云

そわがけの石は、屏風を立てるがごとし。

すぢかへやり、とをよせかけたるがごと。きざハしをわたしかけたるがごとし。山のふもとならびに野筋の石ハ、むら犬のふせるがごとし。豕むらの、ハしりちれるがごとし。小牛の母にたハぶれたるがごとし。

凡石をたつる事ハ、にぐる石一両あれバ、をふ石ハ七八あるべし。たとへバ童部の、とてうとてうひひくめ、といふたハぶれをしたるがごとし。

石をたつるに、三尊仏の石ハたち、品文字の石ハふす、常事也。

又山うけの石ハ、山を切り立てん所にハ、おほくたつべし。しばをふせんにはに、つづかむところにハ、山と庭とのさかゐ、しバのふせハてのきはにハ、わすれざまに、たかからぬいしをすゑもし、ふせもすべき也。

又立石ニきりかさね、かぶりがた、つくゑがた、桶すゑといふことあり。

又石を立にハ、にぐる石あれバおふいしあり、かたぶくいしあれバささふるいしあり、ふまふる石あれバうくる石あり、あふげる石あれバうつぶける石あり、たてる石あれバふせる石あり、といへり。

 

 

(龍石の椿・石組み)

 

(訳:岨崖(そばがけ)の石は屏風を立てたように据えるべきです。あるいは斜めに立て違えたりして、戸をはずして立てかけた様に据えるべきです。それら石の気勢と気勢が交差することによって美的関連が生じます。

山のふもとや野辺の石は、群犬の様に据えたり、野豚が走り戯れている様に据えたり、子牛が母牛に甘えて戯れている様に据えます。

また、石を据える事は、逃げる石が一つあれば、追う石は八、七つ(逃げる石より数多く)あるべきです。例えば、鬼が狙う子供を取らせないようにする、鬼に対抗する側のみんながかばって防ごうとし、あちらこちらへなびくさまを、石の気勢の駆使によってあらわすように石を組めということです。

 

(三尊仏組の例)

 

石を三つ組むにも、三尊仏組だと品文字のように据えることが常で、何れも脇石は庭の広く空いている方が少し低めに据えるのが良い。

また、山留めの石は山を切り立てたような処に多く据えるべきです。芝生の庭に接続するところには、山と芝庭の境、つまり、芝生の終わるところによく気をつけねばわからないぐらいに、あまり高くない石を据えるのがよい。

また、立石は石かどの斜と斜を利用して組み合わせ、正面から見てすき間のないように重ね組ます。かぶる形はうつむきにかぶっている石の形。机形は机を据えたように、または机代りとし利用できるように上の平らな石を据えることです。桶すえは桶のくれ(側面)のように迫持(せりもち)になっており、背後から土砂の圧力を受ける場所に利用されています。

また石を据えるには、逃げる石があれば追う石があり、傾く石があればそれを支える石があり、踏みつける様な石があれば、踏みつけられる石があり、仰向いた石があれば俯(うつむ)いた石があり、立っている石があれば座っている石があるというように、変化がありながら、全体から見て、起伏、抑揚、間隔、大小、強弱のバランスがとれ有機的一体に見えるようにすべきです。)

 

 

(兼六園に何気なく立つ石)

 

兼六園では

一般的に、庭石の据え方として、山天平天があります。 山天は文字通り石の角の部分を頂点にする据え方で、平天は平らな面を上に向け、その面を水平にする据え方です。庭石を据える前に、まず据えようとする石の形や石理をよく見て、どのように据えたら、その石を最大限に生かし美しく据えることができるかをイメージすることが大切で、どの部分を天端にして、どこを見つき(石を据えたとき正面に見える側面部分。)とするか、どれくらいの高さに据えるか、ということです。そして、実際に据える際に最も基本になることは、どっしりと安定感がでるように据えることです。根入れをなるべく深くして、末広がりに石が大きく見えるよう据えます。“根が切れる”根を入れのが浅すぎると、石が浮いたように見え、実に不安定で、石が小さく見えてしまいます。なお、どう据えても根が切れてしまったり、顎等の石の欠点が見えてしまう場合は、その部分に添え石を宛がったり、下草などを添えて隠すようにします。

 

 

(七福神山に立つ石組)

 

五石、七石・・・と多数の石を組む場合でも、一石、二石組、三石組を基本単位として、組み合わせることによってまとめられます。 例えば五石組の場合は、「3・2」、「3・1・1」、「2・2・1」など、七石組では「3.3.1」,「3.2.2.」などの組み合わせが考えられます。 庭はこうした複数の石組みの集合体で、庭を構成する要素の気勢が強ければダイナミックな庭になり、おとなしく均一的な気勢をもっていれば、安定感のある落ち着いた庭になります。七五三石組(しちごさんいしぐみ)15の石を‘753)の3群の石組として配置し、全体を一つの構成として見せるもので,( 七五三は陽数として古来より目出度い数とされた。)

 

 

(からかさ山)

 

本項では、群犬の様に据えたり、野豚が走り戯れている様に据えたり、子牛母牛に甘えて戯れている様に据えます。また、逃げる石が一つあれば、それを追う石は八、七つ(逃げる石より数多く)を、例えば、鬼が狙う子供を取らせないようにし、鬼に対抗する側のみんながかばって防ごうとし、あちらこちらへなびくさまを、石の気勢を駆使するこによって表すように石を組めということです。

 

 

(山ノ上町心蓮社・心字池の周りの燈籠と三尊石)

 

「三尊石」とは、中央に中尊となる少し大きめの石を縦長に立て、左右に脇侍となる小さい二つの石を組んだもので、「三尊仏」を意匠した庭石組の基本となっています。金沢では山上の浄土宗心蓮社の庭の三尊仏が有名です。

 

(仏教の三尊仏(釈迦如来と文殊・普賢菩薩。阿弥陀如来と観音・勢至菩薩。薬師如来と日光・月光菩薩)になぞられて組まれた3個の立石。)

 

拙ブログ

心蓮社の開祖は長氏の生き残り

https://ameblo.jp/kanazawa-saihakken/entry-11465262448.html

 

陰陽石

男根と女陰を象徴した石。子孫繁栄の願いを込めて組まれたもので、江戸時代の大名庭園で流行しました。 子孫繁栄は『御家』の存亡に直結していただけに、現代ほど医療が発達していなかった時代において世継ぎは多いほど安心でした。

(兼六園では、鶺鴒島にあります。)

 

拙ブログ

兼六園の鶺鴒島(せきれいしま)

https://ameblo.jp/kanazawa-saihakken/entry-11970841140.html

 

(つづく)

 

参考文献:「兼六園全史」編輯者 兼六園全史編纂委員会・石川県公園事務所  兼六園観光協会 昭和5112月発行「兼六園を読み解く」長山直治著 桂書房 200612月発行 「兼六園歳時記」下郷稔著・能登印刷出版部 平成53月発行 ほか


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