【長町1丁目～3丁目】
長町は、明治になると藩士は大小に関わらず家禄や屋敷を失い藩政期の豪勢さは消え、維新の困窮に耐え切れず、加賀八家の長家や村井家はもちろん、1番丁から6番丁の中級藩士、さらに村井家の下屋敷（旧長町7・8番丁）まで、殆どが離散没落します。しかし、藩に仕えた武士の陪臣、卒族と云われた足軽や小者たちは、維新の恐慌にもたくましく生き残ります。
(長町四番丁の通りと四の橋と右門家が奥田家の１部）
以下は、大戸宏著の北國新聞社が発行した月刊誌「アクタス」の“続迷宮の旅”石川史秘話第51話の「長町・武家屋敷の足軽たち維新をたくましく行き抜いて」の引用ですが、そのネタは、石引2丁目の有名な老舗大鋸豆腐本店のご主人で、郷土史家だった故大鋸彦太郎氏が蒐集した「鬼川寄り合い」と題した和紙綴で、当時長町4番丁の旧藩士奥田総左衛門（200石御馬廻組）の襖の下張りを剥がしたものを冊綴りにしたもので、手垢で汚れた物だったとされています。
（調べて見ると、奇しくも襖の下張りの奥田総左衛門の家の半分以上が、続迷宮の旅筆者の故大戸宏氏のお住まいでした。）
（大鋸彦太郎（おがひこたろう）：郷土史家大鋸彦太郎氏(1898~1980)の没後、「大鋸コレクション」として石川県立歴史博物館に寄贈された広範囲な内容に及ぶ2万余点の資料です。郷土資料の収集家、庶民文化の研究家として知られる大鋸氏の慧眼によって、廃棄・消滅の寸前に見出され保存されたものであり、郷土史研究にとってかけがえのない貴重な資料となっています。）
（四番丁の奥田家辺り）
「鬼川寄り合い」は、安政3年（1856）から明治9年（1886）までの30年間の“長町の足軽など武家奉公人の組合の記録”で、鬼川（御荷川・現大野庄用水）の恩恵で暮らしを立てた人々の様子が伺える貴重な古文書で、筆者は与力の青木伝兵衛だそうです。
（鬼川と奥の自動車のある家が故大戸宏邸）
（鬼川）
その古文書「鬼川寄り合い」によると、長町の真ん中を貫流する鬼川（現大野庄用水）を、かって、そこに住んだ人々が鬼川を受け入れ活し役立たせたことに習い、さらに発展させています。たとえば鬼川から沁み込む地下水の水利を利用し、どの屋敷でも3ヶ所や4ヶ所の掘り井戸があり、3間（5,5ｍ）も掘れば湧き水が出たという、その技が屋敷に働く者の特技になり、さらに明治になると洋式ポンプの製造に繋がっています。
(三の橋）
（五の橋）
また、記載されているものの中には小者たちの名前や日当も記され、御荷川のコッパの荷駄運びで稼ぐ小者の生業（なりわい）や各屋敷の毎年消費されるコッパ（板枇・いたへぎ）の量が記されています。また、明治になっても藩政期の武家の格であった石高が書かれているのが面白く、明治の一時期、士族と平民の間の足軽などを卒族と言われていた事にもふれるなど、長町のもう一つの歴史が仮名釘流で几帳面に綴たれているそうです。
(石置き屋根の足軽の家・この辺りは足軽組地なく、犀川沿いの旧早道町より移築したもの）
（大戸宏（おおとこう）：大正14年（1925）1月元旦～平成16年（2004）3月1日。金沢の長町で職業軍人の6男として生れ、旧県立金沢第二中学校第2回生。陸軍航空学校第12回生、陸軍飛行学校第7回生。復員後北国新聞記者として入社、編集局整理部長、事業部長、広告局長、販売局長を経て学校法人金沢女子短期大学常務理事、法人本部長、同大学教授（文章表現学）で退職。社会福祉法人聖霊病院常務理事、北陸日米協会、ユネスコ石川、石川県民謡協会、兼六民謡会などの関係。金沢市民文学賞選考委員、用水モニター、長土塀公民館長などに奉仕。昭和53年に泉鏡花市民文学賞を受ける。広坂教会籍カトリック信徒。（経歴は、大戸宏氏のお書きになってものを参考にしました。
(お菓子の太郎さんの土塀越しの鬼川）
拙ブログ（大戸宏氏に著作について）
長町ひるさがり―県庁の紋章―
https://ameblo.jp/kanazawa-saihakken/entry-12333950116.html
長町ひるさがり―南州翁の首―
https://ameblo.jp/kanazawa-saihakken/entry-12328914166.html
（つづく）
参考文献：「月間アクタス」“続迷宮の旅”石川史秘話第51話の「長町・武家屋敷の足軽たち維新をたくましく生き行き抜いて」など