【金沢市内】
暇に任せて何度か兼六園の剪定作業の下で、耳を澄ませて、気がつけばアホみたいに立っていました。勤勉で作業に集中している職人さんたちからは“シャキ、シャキ、パチッ”という心地のいい鋏の音が聞こえるだけで、謡は降らず・・・でした。
しかし職人さん達は兼六園の印半纏で昔ながらの超ロング八分丈に脚絆、地下足袋で、金沢の植木職人の伝統を守る気概と心意気が伝わってくるような、そんな気がしました。たまたま、私には降らなかった・・・ということでしょうか。
というのも、金沢職人大学校では金沢の職人文化の再生と技術の再融合、そして金沢の加賀宝生能楽の振興、発展を目的に、大学校生を対象に「職人さんの謡曲教室」が金沢能楽会から講師を向かえ稽古が行われているそうです。
謡曲教室は初級といいますが“加賀宝生の歴史”“ 能楽の一般教養”“能楽の作法”“研修成果の発表”など、月2日2時間(年間20回)の教室が開かれていると聞きます。
(金沢職人大学校とは、平成8年(1996)に金沢に伝わる伝統技術を守るため、金沢芸術村に設立され、職人技の伝承と、人材の育成に取り組んでいます。設置学科は、本科と修復専攻科があり、本科は9科、植木職人の技術を伝承する“造園“があります。)
≪金沢能樂会≫明治維新による幕藩体制の崩壊によって加賀藩の保護を失い、加賀宝生も衰退しましたが、加賀宝生中興の祖、佐野吉之を中心に金沢能楽会が明治34(1901)年に設立され、以来100年以上の長きにわたって連綿と伝統を受け継がれ、現在も“石川県立能楽堂”において年11回の定例能を催し、通算回数は1000回以上に及び現在にいたっていて、海外公演にも積極的だとも聞きます。
≪石川県立能楽堂≫広坂のあった金沢能楽堂の本舞台を石川県が譲り受け、移築したもので昭和47年(1972)に、全国で初めての独立した公立能楽堂です。永年、金沢能楽会の事業として金沢市内の中学生の「能楽鑑賞」は、金澤能楽堂から引継がれ現在はこの石川県立能楽堂で行われています。
≪中学生の能楽鑑賞≫遠い昔、当然、私も行きましたが、当時、狂言は、思い切り笑った記憶がありますが、お能は、謡曲が聞き取りにくく、舞も何をやっているのかよく分からなく、しかし、分からないなりに、その厳粛さに圧倒されたことを憶えています。
(加賀宝生子ども塾のポスター)
≪金沢能楽美術館≫平成18年(2006)の開館という比較的新しい施設ですが、金沢市の伝統芸能である加賀宝生の貴重な美術品など能楽に関する美術品を収集・展示する日本でも珍しい美術館として、昭和初期に広坂にあった金沢能楽堂ゆかりの地に建設されました。
施設は、1階と2階が展示室、3階は研修室となっています。加賀宝生の能舞台を解説し、昭和7年(1932)に建てられていた金沢能楽堂を模型で再現と、能面や能装束の体験コーナーがあり、実際に能面や能装束の着装ができます。2階の展示室では、加賀宝生の能装束や能面が展示されています。3階の研修室で、伝統文化の伝承を目的とした「子ども塾」の活動なども行われています。
(着付けコーナー)
(体験:般若、翁、 小面、など、能面は約20種類から選ぶことができます。この体験には、金沢の観光ボランティアガイド「まいどさん」が常駐してお手伝いします。)
≪今も続く伝統の神事能≫金沢港に近い金石地区にある大野湊神社の春季大祭で奉納される“神事能”は、今や400回を超え、毎年5月15日に開催されています。大野湊神社に伝わる古文書によれば、神事能の由来は慶長9年(1604)にさかのぼり、加賀藩2代藩主前田利長公が関が原の戦いでの戦勝を記念し、毎年神前に能の奉納を命じたとか。以来、藩主が他界した年などを除いて、今日まで連綿と続いてきたといいます。
(面打ちのプロセスの展示)
≪金沢能樂美術館の新しい試み≫金沢能樂美術館では、従来の能面と能装束展示会、宝生子ども塾などに加え、最近では「面打ち講座」「親子でミュージアム」「手芸などの手作り体験」「朗読会」「演奏と映像をコラボ演奏会」など、積極的なイベントが実施されています。時には能樂と繋がらないのではと言う人もいますが、素人の考えですが“いや、行ってみたら“とお薦めしています・・・。
(金沢能楽美術館1階)
話はどんどん脱線していきますが、脱線ついでに最近、感動したイベントを紹介します。4月12日(金)、13日(土)の夜に開催された“金澤現在夢幻@金沢能楽美術館”です。映像作家モリ川ヒロトー氏が手がたもので、趣ある金沢の日常風景を綴った映像と音楽作品の上映会です。
4月13日(土)には、特別出演として宝生流能楽師・シテ方・高橋憲正氏が“金澤現在夢幻”の映像と音楽に合わせ、能「羽衣」の舞を2回にわたり公演しました。当日はすぐ満員になり、厳粛の中に格調の高い雰囲気に感動しまいた。
(仕舞を舞う高橋憲正氏)
金沢らしいこのイベントは、また、能樂文化の継承の一つの方法のようにも思えます。昔から能衣装ではなく紋付袴で舞った、お能の「舞囃子」の現代版のように思え、現代に通用する、お能の新しいアプローチとしてすごく有効なように勝手の思って帰ってきまいた。
(ちなみに入場は無料でした。)
参考資料:金沢能樂美術館のパンフレット他